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2014年 06月 02日
「Odyssey of Iska 1984」 32.バルセロナ事件 昼過ぎまでカルカソンヌにいたので、スペイン国境に着いた時はもう日は傾いていた。 パスポートチェックのために一旦列車を降り、それが済むと別の列車に乗り換えた。 フランスとスペインでは軌道の巾が異なるためそうするのだ。ちょっとびっくりした。 車窓から外を眺めていると、荒れた土地に搭状の建物がいくつか見える。ナポレオンではないが、ピレネーを超えると風景が少し違って見える。 バルセロナに着いたのは夜9時近くで、外は真っ暗だった。しかも地下駅から地上に出ても、初めての国、初めての街なので、今自分がどこにいるのかさっぱりわからない。 これが第1の失敗だった。(知らない国や知らない街には明るい間に着かなければならない) 駅の両替屋は既に終わっているので、どこかでペセタに換えなければならない。 通りの向こうにいかにも立派な面構えをしたホテルが見える。レートは悪いが、まずはここで換えるしかない。 フロントに行ってパスポートとトラベラーズチェックを見せ、1万円分換えた。 とても暑かったので、パスポートと現金、トラベラーズチェック、帰りの航空券を入れたショルダーケースを身体から外し、一時的にショルダーバッグの中にしまった。カメラやウォークマン、メモ帳やアドレス帳など重要な物がこの旅で初めて一堂に会した。 これが第2の失敗だった。(重要な物は分散し、最も重要な物は身から離してはならない) 「ホテル・ガウディ」に泊ろうと思っていたので、ガイドブックの簡単な地図を頼りにゆっくりランブラス通りを下って行った。 どうやら近くまで来たので、もう一度地図をきちんと見ようと、通りの広場に並んでいるイスの一つに腰掛けた。そして背中のバックパックを前に、ショルダーバッグを横に置き、街灯の明かりで地図を見た。 これが第3の失敗だった。(重要な物は身から離してはならない。ましてや目を離してはならない) 突然、暗闇の中から気の弱そうな痩せた若者が現れ、ペラペラと話しかけながら鼻先で2本の指を動かし「タバコをくれ」というモーションをした。 持っていないので「ノン」と言う。 ふたたび若者がペラペラ言いながら同じモーションをするので、やはり「ノン」と言う。 そして足元を見た。 ショルダーバッグが無い!! そして前を見ると、若者もいない!! やられた!! 奴はオトリで、もう1人がやったのだ。 だが後ろを見ても誰もいない。 私の頭は一遍で沸点に達した。 目の前を通り過ぎる通行人が見える。 彼らに向かって叫んだ。 「今、俺のバッグを盗った奴を見なかったか?!」 すると、思いもかけないリアクションが返ってきた。 「ワ〜イ、盗られた!盗られた!」 そう言って、何人かが手拍子をして喜んだ。 その瞬間、私の頭の温度はストーンと落ちて、ほぼ平常心に戻った。 「そうか、ここはスペインなんだ。何があってもおかしくはないんだ」 そしてすぐそばのゴミ箱を見た。 パリのスリは盗んだ財布は中味だけ抜いて札入れとパスポートはすぐそばのゴミ箱に捨てるかポストに捨てる、という話を思い出したからだ。 だが、ここはスペインで、そういうシャレたことは起こらなかった。 私はなぜだか冷静だった。 「こういう時は最初に水を飲まなくては」 通りを下って来る途中にマクドナルドがあることを思い出した。 そちらに向かって歩き出した。 マクドナルドに着くと冷たいジュースを頼んだ。 注文を聞いて、店員の女の子が「Yes」と言った。 しめた!と思った。 「Do you speak English?」と聞くと、ふたたび「Yes」と言う。 私は先ほど起きた事件をワッと話した。すると女の子は 「ここに座って待っていれば、もうじき店長が来てあなたをフォローします」と言った。 私は礼を言い、ジュースを持って席に座った。 すると目の前にいる痩せた禿鷹のような顔をした女が突然、日本語で話しかけてきた。 「あなた、ニホンジン?」 「そうです」 「実は、わたしはフリオ・イグレシアスのともだちだ」 そう言ってボロボロのフリオ・イグレシアスの写真を取り出し、私に見せた。 (バーカヤロ〜!さすがに2度騙されるほど俺は間抜けじゃネ〜!) だがよく見ると、日本人の顔をした赤ん坊が彼女の横の乳母車の中にいる。 話を聞くと、日本人と結婚して日本に住んでいたが、離婚してスペインに戻ってきたとのこと。戻ってきても仕事は無く、生活は大変らしい。 私も先ほどの事件の話をする。すると、よくあることだと言い、警察署に自分も一緒に行ってやると言う。聞くと領事館や電話局、郵便局の位置などもよく知っている。 確かに怪しい女だ。だが、俺は着いたばかりでバルセロナの地理がさっぱりわからない。このピンチを脱出するにはこの女と折り合いをつけながらやるしかない。そう思った。 次の瞬間、革ジャンの右側のポケットに入っていた両替したペセタを女にはわからないように2つに分け、左右のポケットにしまった。なぜそのような行動を無意識のうちにおこなったのかわからないが、旅をして行く中で自然と身についた嗅覚かもしれない。 警察署に着き、2階の廊下の待合室で2時間近く待った。 時計はとっくに次の日になっている。 目の前にいる女の子が突然、号泣し始めた。それはどんどん激しくなり、この世の果てのように泣き叫ぶ声が建物中に響き渡り振動した。 理由はさっぱりわからない。だが、その光景を見ながら、 (この子の悲しみに比べたら俺の悲しみなんて全然大した事ないな!) と思った。 私の番が来た。部屋に入ると、正面に担当者、横に記録者、周りに同僚がうやうやしく並び、全部で5人くらいの警察官が私の話に聞き入る。 私が話したことを女が通訳し、それを記録者がタイプしながら読み上げ、その度に全員が声を上げた。 「盗まれた物。 トラベラーズチェック50万ペセタ」「オ〜〜〜〜!」 「現金5万ペセタ」 「オ〜〜〜〜!」 「帰りの航空券」 「オ〜〜〜〜!」 「パスポート」 「オ〜〜〜〜!」 「日本製カメラ」 「オ〜〜〜〜!」 「ウォークマン」 「オ〜〜〜〜!」 「革のショルダーバッグ」 「オ〜〜〜〜!」 ・・・・・・・・・・ そして最後に担当者がうやうやしく演説をした。 「我がバルセロナ警察は全力を挙げて犯人を逮捕し、 貴殿の盗まれた品々をすべて返却できるよう全力で努力することをここに誓う」 私はそれを聞いて思わず拍手した。 ところが次の瞬間、全員が立ち上がり、さあ、食事だ!食事だ!と退散してしまった。 これを見て、盗まれた物は絶対戻って来ないと確信した。 外に出たら夜中の3時を過ぎていた。 「お腹が空いたでしょ?」と女が言う。 お腹は空いていないが、興奮しているせいか喉は乾いた。そう伝えると、 「いいレストランを知っている」と言う。 しばらく歩いてセルフのレストランに行った。 店内はやや暗めで、落ち着いたモダンなデザインの店だ。 グルッと廻ったがやはり何も食べる気にはなれず、結局ビール1本をトレーに載せレジに並んだ。 後ろを振り向くと、ビックリしたことに、女が山盛りの食べ物をトレーに載せている。 「ここ、あなたが決めた。だから、これ、あなたが払う」そう言った。 片方のポケットに手を突っ込み、手に触れたペセタを出した。足りた。 女と赤ん坊が食べ終わるのを待って外に出た。 「眠いでしょ?」 そりゃ、眠いに決まっている。 「いいホテルを知っている」と言って、すぐそばの立派なホテルに入ろうとした。 「俺は重要な物を全部盗まれたんだよ。お金が無いことぐらいわかるでしょ?」 そう言って、さっき払ったお金のつりを見せた。すると女は 「わかった」と言って、今度は通りをどんどん下って行った。 海のそばまで来たところで急に狭い路地に入った。 突き当たりの倉庫、というかボロボロの牢屋のような建物の前で門番のような男と何やら話を始める。門番は小さな窓から私の顔を眺め、指を左右に振る。 「わたしとこどもは泊れるが、あなたはパスポートを持っていないので泊れない」 そう、女が言った。 私は警察署で作ってもらった盗難調書の写しを見せながら、門番にどなった。 「お前らの悪い仲間が俺の物を盗んだからこうなったんで、俺が悪いわけじゃない! これはお前らスペインのせいだ!!」 女は笑いながらそれを通訳し、門番は渋々泊めることにOKした。 「部屋は1つで、ベッドも1つでいいか?」と女が聞いた。 「冗談じゃない!部屋は2つで、ベッドも別だ!!」 結局、日本円にして600円くらい払った。1部屋300円!! もちろん、この旅で一番安い宿泊だった。だが、それなりの宿泊だった。 部屋はボロボロのレンガが剥き出しで、鉄の扉も錆び付いていた。鍵は何とかかかったが、本当に牢屋のようだった。(たぶん、船乗りか港湾労働者の簡易宿泊所だったのだろう) ベッドの生地は破れ、スプリングが見える。おまけに動いている虫もいる。 だが、文句は言えない。 明け方の5時近くだった。 私は明朝起きてからしなければならないことを小さな紙に書き出し、それに番号を振って行った。次にバックパックから寝袋を取り出し、頭までスッポリ覆って鼻だけ出すと、チャックを目一杯上まで上げた。何が起きてもいいよう電気は付けっ放しのまま寝た。 こうして長い一日が終わった。 かずま
by odysseyofiska4
| 2014-06-02 20:09
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