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2010年 09月 14日
「Odyssey of Iska 1984」 4.ローマ(2) バチカンを見た翌日はカンピドリオの丘へ行き、翌々日はポルタ・ピアと、ミケランジェロの建築を見て歩いた。 ミケランジェロの絵画や彫刻はどれもがダイナミックで力強い。量感やプロポーションも独特だが、それはそのまま建築においても当てはまる。 彼はルネッサンスとバロックを結ぶマニエリスム期の芸術家に位置づけられるが、実物を見ると、ほとんどバロックとしか言いようがない程、後者に大きく脚を踏み入れている。 というか、バロックを創出した、と言った方が正しいだろう。 ロマン派の絵画や表現主義絵画さえミケランジェロから始まったと言えないこともない。 それ程、すべてに大きな影響を与えた巨星だ。 だが、バロックの建築で一番感動したのはボッロミーニのクワトロ・フォンターネだ。 この建物は一般の有名な建物のように広場に面しているのではなく、交差点の一角にある。通りを歩いていると唐突に現れるので意外だった。(それぞれの四つ角には噴水があるので、この名が付いた) 正式には、サン・カルロ・アッレ・クワトロ・フォンターネ聖堂という。 不利な立地だけでなく、敷地もとても小さい。おまけに予算が無かったのか、全体に張りぼてのような感じだ。 だが、そんな悪条件にも関わらず、当時不遇をかこっていたボッロミーニの創造性が爆発して彼の才能が遺憾なく発揮されている。小さい建物だが、サン・ピエトロに匹敵する重さと密度がある。 まず、ファサードが凄い。うねる曲面は、これぞバロックという感じだ。通りに面して引きが無いので見上げる感じになり、余計大きく感じられる。上部に設けられたメダイヨンも独特だ。 内部も小さいのに幾つものアルコーブが設けられ、楕円の模様が共鳴し、うねりながら自然と上部へ視線が上って行く。そして、あの複雑で美しい中央のドームで目が釘付けになる。 小さいが濃密で力強い、なんという空間体験なんだ!!! 地下にある聖堂や隣接する回廊も独特だった。ボッロミーニの、この小さな建物に注ぎ込んだ魂とエネルギーに脱帽した。 それに比べると、ベルニーニの建物にはあまり感動しなかった。 クワトロ・フォンターネから歩いてすぐの所にあるサンタンドレア・アル・クイリナーレ聖堂にしても、先に述べたサン・ピエトロ広場にしても、サン・ピエトロの中にあるバルダッキーノ(巨大な祭壇の天蓋)にしても、同時代を生きた人間であるにも関わらず、二人から受ける印象はまるで違っていた。 ベルニーニの建物はすべてが綺麗でお金がかかっていて、楕円も正確な幾何学に基づいていて、技術はすばらしい。(ベルニーニはその人生のほとんどを歴代のローマ法王から加護と寵愛を受けた) 反対に冷飯を食わされ続けたボッロミーニの建物は綺麗というよりねじ曲がっていて、材料や仕上も恵まれていなく、楕円も円弧の連続で作られた一時代前の技法だ。 だが、その方がずっとヒューマンで艶かしく、ダイレクトにボッロミーニの熱い気持ちと気迫が伝わって来る。 ベルニーニの建物は確かにすばらしいのだが、テクネ(技術や論理)が前に出過ぎていて、感動する以前に鼻持ちならない何かを感じる。それはローマ中に転がっている彼の有名な彫刻群においても同様だ。 もちろん、人によって感じ方は違うだろう。しかしこういうことの積み重ねから、私は自分がどういう人間なのか、何を大切に思っている人間なのか、を少しずつ自覚するようになった。 これに近い出来事(事件)はもう一つあった。 ローマ郊外のヴィラ・ジュリアに行った時のことである。 その日は暗い雲に覆われていて、地下鉄の最寄り駅からタクシーで向かったのだが、途中で道をわざと間違えられ、物の見事に料金を踏んだくられた。だが、知らない場所に何とか着いたのだからラッキーだと考え、中に入った。 ヴィラ・ジュリアは格別見たかったわけではない。Hが「おもしろいよ」と勧めなければ、多分行かなかっただろう。だが、中に入って考えが変わった。長い回廊が中庭を囲むように一周していて、独特の力強い構成を感じた。ヴィニョーラの作品ではカプラローラで見たヴィラ・ファルネーゼよりいいと思った。 だが、建物以上に強く惹かれたのはヴァザーリが作った中庭の庭園だ。 中央の半円形の東屋は1層、2層と掘り下げられ、回廊に囲まれ、劇場のようだ。 中庭自体がとても人工的かつ建築的で、建物と同じくらい力強い構成に貫かれている。 日本ではこうした強い建物や庭園に接したことが無かったので、とても驚き、魅せられた・・・ 帰ろうとしたら雨が降って来た。 傘を持っていなかったので、建物内部に閉じ込められた。 小1時間程、ずっと中庭を見ていた。 やっと雨が止んで帰れるようになった。 すると、不思議なくらいこの庭を退屈に感じている自分に気がついた。 さっきまでシンメトリーで力強い構成に魅せられていたのに、いつのまにかそれに厭き厭きしている自分がそこにいた。 いや、もっと不遜で、こいつら頭が固い馬鹿じゃないかとさえ感じていた。 京都の庭や、布や紙や竹や木でできた古い日本の建物が頭を過った。 それまでずっと、見る物聞く物すべてが新鮮でおもしろく、ヨーロッパに魅せられていた私が初めて疑問を持った瞬間だった。 だが、それは一瞬のことで、次に出会った新鮮でおもしろいもの達にかき消され、再び私はヨーロッパに魅せられて行った。 ただ、一度芽生えた疑問の種は少しずつ成長し、やがてそれは確信へと変わって行くのだが ・・・ただ、それがあきらかになるのは、それから半年以上先の話だ。 かずま
by odysseyofiska4
| 2010-09-14 23:01
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